「資源・食糧ひっ迫を迎える前に、日本がやるべきこと」
今世紀に入って、世界の経済情勢は大きく様変わりした。中国やインドなど人口大国による経済成長が世界的なコモデティの需要増を牽引し、資源・食糧の世界的な争奪戦が開始され、あらゆる資源・食糧価格が高騰している。しかもその高騰は一時的なものではなく、均衡点価格の変化を起こしている。
2000年初頭、ニューヨークWTI原油(期近)は1バレル=20ドル台だったが、現在は80~100ドル台をつけている。小麦、コメ、トウモロコシなども2000年代初頭から数倍の価格となり、デフレ化にある日本では感じにくいかもしれないが、コモデティの価格ステージが変化していることを示している。
こうしたコモデティの高騰はコスト増による企業収益の圧迫となり、企業は資源あるいは市場確保のため、海外へ進出せざるを得ない。国内ではデフレのため製品価格に転嫁させられず、さらなる収益減となるためだ。
一方で、こうした資源価格高騰は電気自動車や省エネ車を生み出し、新たなイノベーションを起こす契機となる。これまでの資源爆食型経済から省エネ型社会に対応するための社会的必然が起こりつつあるのが現在の状況だ。
では、高騰するコモデティに対して、私たちはどうすべきか。
3つのポイントを挙げてみたい。
1、国内および海外の資源・食糧権益
2、省エネの促進
3、国内資源の有効活用
1は言を待たない。すでに中国などはアフリカ、アジアなどに油田権益や農地を確保しており、日本は一刻も早く権益を確保し、それを拡大すべきだ。これは主に商社などの役割となるだろうが、政府としても、外交ルートなどあらゆる手段を通じて行うべきだ。
2に関しては、高騰するエネルギーや資源価格に対して、日本が優位性を持つ省エネ技術を駆使し、省エネ社会を実現すべきだろう。すでに省エネ技術を使った製品は数多く出回っているが、自動車や電力など、資源を大量に使う場においてはまだまだ省エネの余地が残されている。
3、海外の資源および農産物の確保とともに重要なのが、国内にある資源の見直しだ。国内には様々な資源が眠っている。しかし、人件費や設備費などが高コストになるため今まで放置されてきた。資源の高騰を追い風とし、新たに国内の資源を見直し、活用するための道筋をつけるときだろう。
また、農産物に関しては、これまで「過剰」を前提にしてきた農政を「不足」へと切り替え農産物の増産を図ることだ。とくにコメに関しては、減反をやめて拡大再生産を図る。就農者の平均年齢が66歳を上回り、農村は過疎と就職難で苦しんでいる。あと10年以内には、ほぼ間違いなく農業従事者が大幅減少することが見込まれている。一方で、中国をはじめとした新興国が購買力をつけており、「安心・安全」という日本の農産物は需要が高まりつつある。
いままで培ってきた農業技術を武器に、競争力をつけ持続可能な力強い農業を行うための戦略を立てる時だ。「美味しい」「安全」「環境にやさしい」という日本の農産物を輸出することに挑戦していくことを期待したい。
そのためにはTPPをむやみに敵視するのではなく、農業の6次産業化を目指した攻めの農業を行うべきだろう。そのために、オールジャパンで一次産業への投資を進めて就労者を増やし、農村での雇用を増やし、農村経済を活性化させる。
円高による産業の空洞化はもはや避けられない。世界人口が70億人を突破し、資源・食糧の増産にも限界がある。いざというときのために、新たな視点で日本をもう一度見直し、未来へ向けて来るべき一歩を踏み出すべき時ではないだろうか。
株式会社資源・食糧問題研究所 代表 柴田 明夫